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蒼文豪の爽言


どこまでも続く青空 その蒼のように爽やかに
by aobungo
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未来を選択するのはボクだ

寝苦しさは、熱帯夜のせいばかりじゃない。

ボクは何度かの寝返りをあきらめ、電気の消えた部屋の天井を見つめる。
暗闇の中に、椎名の顔が浮かんできた。
ボクがあわてて目を凝らすと、そこはやっぱりいつもの天井だった。



「椎名は、誰かと付き合ってるぜ。」

それが男子の間での、もっぱらの噂だった。
「付き合っている」ということがどういうことなのか、ボクをはじめ誰もがよくわかっていなかった。でも、その言葉の持つ、何かいけない事のような、それでいて甘美な響きに、みんな夢中になって噂していた。

椎名は、どこか大人びた女の子だった。

背もクラスの中で一番高かったし、他の女子がやるような遊びには加わらなかった。
男子がバカな遊びに夢中になっていると、椎名は注意するわけでもなく冷めた目でそれを見た。
その眼で見られると、男子はすごく馬鹿にされたみたいに思うんだって。
だから、男子は椎名のこと「冷たい女」とか「いやみなやつ」とか悪口を言う。

でも、ボクは。

ボクは・・・



ボクだけしか知らない椎名の顔を、ボクは知っている。
お母さん同士が仲良かったから、お互いの家で行き来はあった。
「タカシ君のお部屋で遊んでもらいなさい。」
初めて家に来た時、椎名のお母さんは後ろに隠れた椎名を前に押し出した。
椎名はにこりともしないで、玄関で軽く頭を下げた。
それから椎名は、つまらなそうな顔でボクの部屋にただ座っていた。
ボクは何を話しかけていいのか分からず、時間だけが過ぎて行った。

「あっ。」
椎名が声を上げた。視線の先を見ると、家の猫のチャチャが部屋に入ってこようとしていた。
チャチャを見たとたん、それまで見たことのないような笑顔で、椎名はチャチャに手を伸ばした。
「なんて名前なの?」
それがはじめて聞いた椎名の声だった。
「チャチャ。」
椎名は「ちゃちゃ、ちゃちゃ。」と何度も呼び、いつもは人みしりのチャチャも妙に椎名に媚を売ってお腹を見せたりしていた。

「椎名ってさ。」
「何?」
「そんな顔で笑うんだな。」
言ってしまってから、余計なこと言っちゃったとボクは思った。
でも椎名はきょとんとした顔をしてボクの顔をみて、それから笑った。
「似合わないかな?」
椎名の笑顔を見てると、ボクはなんでかあわててしまって、「いや、」とか「その、」とかしか言えなかった。
そんなボクを見て、椎名はまた笑っていた。

なんか、とても椎名っぽくない笑顔で。



「タカシ、お前椎名と付き合ってんじゃないのか?」

勇二が意地悪な顔つきでボクに話しかけた。休み時間のことだ。
「やっぱ、そうかぁ。」「やるぅ。」男子が一斉にはやし立てる。
その時、なんだか、ボクはとても恥ずかしい気持ちになった。

「違うよ。」
ボクはあわてて言い返す。
「またまたぁ。」「照れるなよ。」
余計みんなははしゃぎだす。
「違うってば。」
あわてだしたボクの舌は、とたんに嫌な言葉を吐き続けた。
「椎名なんて・・・。あんなでっかい女。いやみでツンとしてて。」
だんだんと、ボクの声は大きくなってきた。

「にこりともしないだろ。あんな奴、大っきらいなんだ。」

その時、椎名が教室の入り口に立っていたのが目に入った。

しまった!聞かれた!

ボクは慌てた。
でも、椎名はいつもと変わらない、冷めた目でボク達を見ていた。

でも、ボクにはわかった。ボクだけには、わかったんだ。

椎名が悲しそうな顔をしていたのを。悲しんでいたのを。

でも椎名は何も言わず、教室から出て行った。



ボクは目を閉じた。きっと眠れないってわかっていたんだけど。

今日の夜、椎名のお母さんが家に来たんだ。
「急な話なんだけど、主人の転勤が決まってしまって・・・。」
昼間にあんな事があったから、ボクはどきどきしながら椎名のお母さんの話に聞き耳を立てていた。
でも椎名のお母さんから、椎名の話は出なかった。
帰り際に、「いつも遊んでくれてありがとうね。タカシ君と会えなくなるの、すごくさびしがっていたのよ。」と椎名のお母さんはボクに言っただけだった。

何回目の寝返りを打ったのかわからない。

とうとうボクは布団の上に起き上ってあぐらをかいた。
月の光が、窓から斜めに差し込んだ。
まるでスポットライトのように、机の上を照らし出していた。
開け放ったままの窓から、夜風が吹きこんできて、おきっぱなしだった机の上のノートをめくった。
ボクは何気なく、それを見ていた。

ぱら、ぱら、ぱら。

ノートは規則正しくめくれていった。

やがて、風がやんだ。

青白い光に照らされたページに、見たことのない文字が書いてあった。





「GO」





ボクは何かに弾かれたように飛び起き、服を着替え始めた。

何のためか、何をしようとしているのか、分からないけど。
お母さんになんて言われるか、分からないけど。




ボクは、ボクの心が赴くまま

     ボクの部屋を、飛び出した。





タカシ君が出て行った部屋には、変わらず月の光が差し込んでいます。

机の上には、開きっぱなしのノートが置いてあります。

何も書かれていない、真っ白なノートが。



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 お題の記事に対してトラバしてボケて下さい。
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トラボケ 2008夏 レベル5 お題発表♪

by aobungo | 2008-08-11 22:46
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